ファミリーマートのTOB価格推移を整理
伊藤忠商事が子会社のファミリーマートに対してTOBの実施を発表しました。
伊藤忠商事は8日、傘下のコンビニエンスストア大手ファミリーマートに対し、TOB(株式公開買い付け)を実施すると発表した。経営判断の迅速化が狙い。買い付け総額は約5800億円。現在50.1%の株式保有比率を100%に引き上げた後、4.9%(約570億円)を全国農業協同組合連合会(JA全農)と農林中央金庫に譲渡する。
出典:https://news.livedoor.com/lite/article_detail_amp/18540746/?__twitter_impression=true
元々、伊藤忠商事は過半数以上(50.1%)の株式を保有しており、敵対的TOBでもありません。
しかし、そのTOBの金額については少々いわくつきです。
なんと、ファミリーマート側がTOB金額がネックで、一般株主に対してTOBへの応募を積極的に推奨することはできない、と適時開示で発表しているのです。
本公開買付けの買付け等の価格である 2,300 円は、当社の一般株主に投資回収機会を提供する観点では一定の合理性があり、妥当性を欠くものとは認められないものの、一般株主に対し本公開買付けへの応募を積極的に推奨できる水準の価格に達しているとまでは認められないことから、株主の皆様に対して本公開買付けへの応募を推奨することまではできず、本公開買付けに応募するか否かは株主の皆様のご判断に委ねることとしております。
出展:https://www.family.co.jp/content/dam/family/ir/release/20200710_release.pdf
単純にTOB価格が安いから、TOBに応募するかどうかのご判断はお任せします、という中途半端な宣言です。
なぜ、こんな中途半端なことになってたのか
ファミリーマートがTOBの応募について、消極的な発言をするのはTOB価格が二転三転したことにあります。
その原因は、なんと新型コロナウイルスです。
二転三転するTOB価格
3月初旬:TOB価格2,600円
最初にファミリーマートへTOBの打診があったのは今年の3月初旬です。
この時のTOB価格は2,600円でした。
2020年3月2日、当社の非公開化に関する正式提案書(当該提案書に基づく正式提案を以下「3月2日付正式提案」といいます。)を当社に対して提出し、本公開買付価格を2,600円とすること、本公開買付けの期間を2020年4月13日から2020年5月26日とすることを当社に対して提案しました。
新型コロナウイルスの影響拡大:TOB価格2,000円程度
3月に新型コロナウイルスの感染拡大が意識され始め、小売業全体への影響が拡大していきます。
ここで、TOB価格変更の打診がきます。
その価格は2,000円程度です。
3月下旬以降、新型コロナウイルス感染症の感染者数が急速に増加したことを受けて、伊藤忠商事及び公開買付者は、2020年3月28日、新型コロナウイルス感染症の感染拡大が当社の業績の短期的な悪化につながるのみならず中長期的にも当社の業績に悪影響を与え、当社の上記事業計画の達成可能性にも重大な影響を与える可能性があるため、本公開買付価格を含む取引条件を再検討する必要があると考えるに至ったとのことです。これらの結果を総合的に勘案した上で、2020年3月28日、伊藤忠商事及び公開買付者は、ファイナンシャル・アドバイザーである野村證券を通じて、当社に対し、本公開買付価格の水準を2,000円程度とする旨の提案(以下「3月28日付提案」といいます。)を行いつつ、引き続き新型コロナウイルス感染症の感染拡大が当社の事業に与える影響の分析等を行ったとのことです。3月28日付提案に対し、伊藤忠商事及び公開買付者は、当社から、新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響による株価の騰落は一時的なものである可能性もあり、そのような提案は承服できないとして、提案内容の再検討の要請を受け、その後も当社との間で協議を重ねました。
5月中旬:TOB価格2,200円
3月の打診からしばらく時間が経ち、5月に進展があります。
ここで提案のあったTOB価格は2,200円です。
ファミリーマート側はファイナンシャル・アドバイザーとともに検討し、TOB価格の引き上げを要請します。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大が当社の事業に与える短期的な影響のみならず、中長期的に与える影響についても従前よりは精緻に見込める状況となったため、伊藤忠商事及び公開買付者は、2020年5月14日、本公開買付価格を2,200円とすること、及び公開買付けの開始日を2020年6月の可能な限り早いタイミングとすることを当社との面談で提案(以下「5月14日付提案」といいます。)しました。
~中略~その後当社は、2020年6月5日、ファイナンシャル・アドバイザーによる財務的見地からの助言とそれに基づく協議に加え、直近株価及び一定期間の平均株価に対するプレミアム水準及び新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響が出る前の株価水準等を総合的に勘案した結果、5月14日付提案における提案価格である2,200円は承服できず、本公開買付価格の引上げを要請するとの回答をいたしました。
6月下旬:TOB価格2,300円
前回ファミリーマート側がTOB価格の引き上げを要請したため、再度提案のあった金額が2,300円です。
伊藤忠商事及び公開買付者は、それに基づいて改めて本公開買付価格の検討を行い、ファイナンシャル・アドバイザーからの当社の価値評価に関するアドバイス及びそれに関する議論も踏まえて、2020年6月26日、本公開買付価格を2,300円とすることを当社に対して提案(以下「6月26日付提案」といいます。)しました。
7月初旬:TOBに賛同
7月初旬にファミリーマートはTOBに対して賛同します。
ただし、TOB価格については難色を示していることが文面から伺えます。
最終的には、一般株主の判断に任せる、として中立の立場を取ることとしています。
最終提案に対して、当社は、2020年7月3日、本取引により当社が非公開化されることによって、当社の企業価値が中長期的には向上すると考えているため本公開買付けに対しては賛同するが、
~中略~十分なプレミアムが付されているとは認められない等、当社の一般株主の皆様に本公開買付けへの応募を積極的に推奨することができる水準には達していないとの結論に達したため、本公開買付けに応募することを推奨することの是非については中立の立場をとった上で、最終的に株主の皆様の判断に委ねるのが相当であると判断した旨回答いたしました。
なんでしょう。こんな感情のにじみ出た適時開示文章は見たことが無いですね。
結果的にTOB発表までに、
2,600円
2,000円程度
2,200円
2,300円
と3回TOB価格が変化しています。
※ここまでの引用分はすべてファミリーマートの適時開示から引用しました。
https://www.family.co.jp/content/dam/family/ir/release/20200710_release.pdf
TOBに応募しないという選択肢は?
さて、では我々一般株主は今回のTOBについて、どうしたら良いのでしょう。
ファミリーマート株を保有している方は、
- 市場売却する
- TOBに応募する
- TOBに応募しない
という3つの選択肢があります。
市場売却してもTOBに応募しても、売却価格は大体2,300円になると思います。
ですが、保有したままTOBに応募しない、という選択肢もあります。
TOBには買付予定数の下限数量が設定されており、それは全体の9.9%です。
全体の50.1%を伊藤忠が保有し、ETFやパッシブファンドの保有量は約30%と推定されています。
(ETFとパッシブファンドは上場廃止となるまでTOB応募しない可能性が高い)
つまり、一般株主は約20%であり、その半分以上が応募することがTOBの成立条件となります。
この下限数量は、一般株主の意向を汲むための数字です。
ファミリーマートがTOBへの応募を一般株主の判断に任せる、としたのはこの下限数量を意識しています。
要するに、TOB価格に不満があるなら応募しないでくれ
と言っている訳です。
TOBが成立しなかった場合、断言はできないですが、TOB価格を変更して再度TOBが行われる可能性があります。
こうなると面白いですし、これを見越してか市場価格は2,300円を超えた金額で推移しています。
どの道TOBが成立したら2,300円で現金化できるので、保有したままTOBに応募しない、というのも面白いと思います。
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